2014年8月のトルコリラ急落_アイキャッチ

2014年8月に起こったトルコリラ急落の分析


高金利通貨として人気の高いトルコリラですが、ここ数年の値動きは極めて激しく、マイナーカレンシーの中でもリスクの高い通貨として知られています。今回はここ数年の急激な値動きの中でも、トルコをめぐるリスクがもっとも顕在化した2014年8月の急落についてその概要を見てみましょう。

新興国トルコと通貨「トルコリラ」の特徴

トルコは、近代化が進められた工業・商業と、伝統的な農業とからなり、農業人口が国民の約4割を占める典型的な新興国です。工業はもっぱら軽工業が中心で、繊維・衣類分野の輸出大国ですが、近年では世界の大手自動車メーカーと国内の大手財閥との合弁事業を柱として、重工業の開発が積極的に進められています。
工業化が進んでいるのは北西部の一部地域に限られ、北西部と観光収入の多い地中海・エーゲ海沿岸地域と首都アンカラ周辺以外の地域では、依然として経済に占める農業の比重が大きいいびつな経済構造を解消できていません。特に東部地域は経済の近代化の遅れが目立ち、農村部の貧困や経済格差が大きな社会問題となっていますが、長年の政府による開発推進政策でも解消されず、不満の温床となっています。
2000年ごろからハイパーインフレや通貨切り換え(デノミネーション)がおこなわれるなど、不安定な経済状況が目立ちました。しかしエルドアン大統領の就任と、それにともなう各種の経済政策の実行により安定とともに急成長ととげ、特に高金利政策によるインフレの抑制は比較的高く評価されています。
この高金利政策が、デノミ後のトルコリラの高利回りを実現したことで投資運用機関や為替投資家の間でトルコリラが高金利通貨として認識されることなりました。特にFXをはじめとする為替取引では、スワップポイント(インカムゲイン)を狙う取引で高いリターンを期待できる通貨として注目を集めています。高金利通貨として注目を集めはじめているトルコリラですが、国内の金融機関が提供する外貨預金やFXでは、トルコリラの取引は少なく、銀行や証券会社などの機関投資家もトルコリラの取引をはじめたばかりという実情があります。
しかしこれは日本に限った状況ではなく、世界でもっとも早く為替取引がはじまるアジア・オセアニアタイムでトルコリラの為替レートが動くことはほとんどありません。トルコリラはマイナーカレンシーの例に漏れず流動性が低いため、アジア・オセアニアよりも取引参加者・取引量ともに多いロンドン市場やニューヨーク市場の取引がはじまらないと、為替レートが大きく動かないという特徴があります。

このため、わずかな取引でも為替レートが大きく変動しやすく、

  • 値動きが荒い
  • メジャーカレンシーとくらべてスプレッドが大きい

という取引上のリスクが存在します。

地政学的リスクを受けてトルコリラ急落

このような特徴を持つトルコリラは、ここ数年に渡って年に1回のペースで比較的大きく下落することで知られています。中でも注目を集めたのが、2014年8月の急落でした。当時、トルコとトルコの周辺にはどのような事件があったのでしょうか。前後数ヶ月の事件と合わせて見てみましょう。

  • 6月2日…スペイン国王フアン・カルロス1世が退位を表明。
  • 6月5日…欧州中央銀行、金融緩和追加策として、政策金利を過去最低の年0.15%とすると同時に、主要国・地域で初めて、民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金の金利をマイナス0.1%とするマイナス金利政策を導入。
  • 6月7日…ウクライナで、ペトロ・ポロシェンコが大統領就任。
  • 6月19日…スペインのアストゥリアス公フェリペ王子がフェリペ6世として新国王に即位。
  • 6月27日- ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領、欧州連合各国首脳と、自由貿易協定を含む包括的な協力の枠組みを定めた「連合協定」の経済条項に署名。
  • 6月27日- 欧州連合首脳会議において、ジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾの後継となる欧州委員会委員長について、デーヴィッド・キャメロンイギリス首相らの反対意見を受け史上初の採決を実施、26対2の賛成多数でジャン=クロード・ユンケル前ルクセンブルク首相を指名。
  • 6月29日…イラク北部を制圧するイスラム教スンニ派武装組織ISIL(IS)が、カリフ(予言者ムハンマドの後継者)を最高指導者とする国家の樹立を宣言、アルカイダなど他のイスラム組織に従属を求める。
  • 7月8日…イスラエル軍は本格的なガザ攻撃を開始した(ガザ侵攻 (2014年))。
  • 7月16日…ジャン=クロード・ユンケルが欧州議会の承認を受け欧州委員会委員長就任。
  • 7月17日…ウクライナ・ドネツク近郊で、オランダ・スキポール国際空港発マレーシア・クアラルンプール国際空港行マレーシア航空ボーイング777が撃墜され、乗客乗員298名全員死亡 (マレーシア航空17便撃墜事件)。
  • 8月1日…イスラエルとハマスが72時間の停戦に合意をした (ガザ侵攻 (2014年))。
  • 8月8日…世界保健機構(WHO)は、西アフリカ諸国にエボラ出血熱の感染が拡大していることをうけ、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言(2014年の西アフリカエボラ出血熱流行)。
  • 8月8日…アメリカを中心とした有志連合国が、イラクに展開するISIL(IS)に対して空爆を開始(同年10月16日に生来の決意作戦とする作戦名が後付けされる)。
  • 8月26日…オバマアメリカ大統領がISIL(IS)に対して「正義の鉄槌を下す」と演説する。

出典:2014年 – Wikipedia

このようにトルコ周辺では毎年のように繰りかえされるイスラエルによるパレスチナ・ガサ侵攻やイラク・シリアにまたがる広範な地域でのISIL(ISIS = ダーイッシュ)の台頭、ウクライナとロシアの緊張関係の激化など、様々な地政学的リスクが表面化しました。これによりリスクに敏感な外国為替市場はリスク回避の動きを強め、投資リスクの高いトルコリラが強く売られる展開となりました。

大統領選の結果に対する疑問の声

周辺情勢に不安の大きかったトルコの国内情勢に焦点を移すと、エルドアン氏の大統領就任に対する疑問の声という政治的リスクがありました。大統領選においてエルドアン元首相は、従来の経済発展の貢献を買われて、大統領選に当選するという形になりました。エルドアン大統領は大統領就任後速やかに憲法改正をおこない、大統領権限の拡大を目指しましたが、反エルドアン大統領派はこの動きをトルコの政治・経済の安定を壊し、独裁に繋がるものとして批判しました。
その後の政治状況を見るかぎりでは、反エルドアン大統領派の批判は当たらずとも遠からずといったところであり、エルドアン大統領は徐々に強硬な政治姿勢を見せるようになっています。

おわりに

マイナーカレンシーに特有のリスクに加えて、地政学的・政治的リスクも背負ったトルコとトルコの通貨トルコリラは、グローバル化により難しい舵取りを迫られています。高金利政策が魅力となるトルコリラですが、今後もその政策が維持できるのかは注目したいポイントと言えるでしょう。

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