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911テロが世界に与えた経済への影響を読みほどく


21世紀最初の年に発生したアメリカ同時多発テロ(911テロ)は、直接の当事国となったアメリカだけではなく、世界経済にも大きな影響を与えることとなり、遠くサブプライム危機やリーマン・ショック、世界金融危機の引き金ともなりました。アメリカとテロリストとの戦争という視点から語られることの多い911テロですが、経済的にどのような影響があったのでしょうか。今回は911テロが世界に与えた経済への影響を振りかえってみましょう。

911テロによる直接的な世界経済への影響

911テロの発生によりその日のアメリカ国内の取引は中止され、翌週17日(月曜日)に再開するまで、取引所や金融機関は修復作業に追われました。再開後のNYダウは取引時間中に8,883.4ドルまで下落し、為替レートもドル円で118.5円まで急落します。アメリカ以外の株式市場は、報道によって事態が徐々に明らかになるにつれて全面安となり、一部で「911ショック」とも呼ばれたこの同時株安は、その後多くの国においてしばらく続くこととなります。
株式・為替以外を見てみると、大企業が外国出張の禁じたことや航空機を利用した観光需要の急減により事件後は航空需要が一時的に激減、世界中の航空会社が大きな打撃を受け、アメリカを中心として各国の航空会社が赤字転落や経営破綻を余儀なくされました。

911テロによる中東不安と資源価格の高騰

911テロの発生により「対テロ戦争」の名のもとに、アメリカは首謀者とみられるアルカーイダの本拠地とされた中央アジアのアフガニスタンや、テロ支援国家として名指しした中東・イラクに侵攻します。イラク戦争によってこれまで非公式に輸出されていた世界第2位の埋蔵量を誇ったイラクの原油輸出が不可能となり、原油をはじめとした商品(先物)市場を通じた資源投機に拍車がかかり、豪ドルやカナダドルに代表される資源国通貨も全面高となりました。中東の産油国カルテルであるOPECの非加盟国であったロシアは、原油価格の高騰で採算に難があった北極油田の採掘がペイしたことでサウジアラビアを抜いて世界一の産油国となり、これまでの債務国から債権国に転じて、プーチン大統領の指導のもと、「強いロシア」の復活に邁進することとなります。
2007年から2008年にかけて原油価格が1バレル = 80ドルから140ドルと急騰したことで各国の金融・財政当局はインフレ警戒感を抱き、それまでの金融緩和から引き締めに転じます。これにより米国との金利格差が生じることになったことや、イラクの政情安定の見通しが拡がったことで原油価格の下落が期待され、翌2007年から為替市場では米国からより金利の高い通貨国への資金移動が起こり始め、それまで上昇する一方だった米ドルは下落に転じます。

「強いロシア」の復活と中国の台頭

ロシアはサウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油生産・原油輸出国であり、2003年以来の原油価格上昇によって貿易収支が改善したことで市場経済転換後の長い経済停滞を脱して、急速な景気回復を達成しました。2000年にはGDP成長率が10%を越える一方、インフレーションも抑制されて好調が続き、一人当たり名目GDPも、1999年には1,334ドルだったものが2006年には6,879ドルと5倍強の増加を達成します。これによりロシアはブラジル・中国・インド・南アフリカと並んで「BRICs」と呼ばれる経済成長が著しい新興国の1つとして数えられ、BRICs諸国の中では1人当たりのGDPがもっとも先進国に近いロシアは、かつての超大国の地位を再び獲得しようとしています。
この経済成長を演出したプーチン大統領は、アメリカと台頭に渡り合える「強いロシア」の復活を掲げ、ソ連崩壊後に低迷していた軍関連の支出を大幅に拡大するとともに、2008年の南オセチア侵攻や2014年のクリミア侵攻・併合など、「新冷戦」も厭わない強硬姿勢を見せています。ロシアの復活と合わせて世界経済の有力なプレイヤーとなったのが、改革開放により外資の資本投入と、安い人件費を要因とした安価な製品輸出の拡大に成功した中国です。世界貿易機関(WTO)の統計によると2003年の対中直接投資は535億ドルとなり、アメリカ合衆国を抜いて実質的に世界最大の直接投資受入国となり、経済成長のきっかけとなった改革開放の性格上、輸出についてはアメリカやアジアの周辺各国への輸出を拡大したことで、大幅な貿易黒字を記録しています。これにより中国は日本を抜いてアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国へと成長を遂げ、現在はその経済規模に見合った技術水準の獲得に邁進すると同時に、安定成長のための構造改革を進める「新常態(ニューノーマル)」の実施を掲げています。

おわりに

このように21世紀最初の年に発生した911テロは、それまでのアメリカ1強であった冷戦後のグローバル経済の構造の変容を招き、軍事のみならず経済面でもアメリカの影響力はかつてに比べると小さくなっています。この方向性はより進む要素こそあっても、流れを押しとどめる要素が見当たらないため、何らかの大きな転換がなければこのままであり、新冷戦とも言われる国際情勢は、政治だけではなく経済にも大きな影響を与えると言えそうです。

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